愛撫
2021年03月13日
青空文庫短編集から著作権フリーの本を読み物アプリとして編集掲載しています。
猫の耳というものはまことに可笑おかしなものである。
薄べったくて、冷たくて、竹の子の皮のように、表には絨毛じゅうもうが生えていて、裏はピカピカしている。
硬かたいような、柔らかいような、なんともいえない一種特別の物質である。
私は子供のときから、猫の耳というと、一度「切符切り」でパチンとやってみたくて堪たまらなかった。
これは残酷な空想だろうか?
否。
まったく猫の耳の持っている一種不可思議な示唆しさ力によるのである。
私は、家へ来たある謹厳な客が、膝へあがって来た仔猫の耳を、話をしながら、しきりに抓つねっていた光景を忘れることができない。
続きは本文で。